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■ 2017/02/04 (土)  3ターン攻撃力1.3倍になる魔法 ■
※こちらの記事は第1稿でイマイチなデキなので、
より面白く整理された、以下の本の「サンプル部分」を
お読みいただくことを推奨します。
(今回の内容とまったく同じ範囲までサンプルで読むことができます)


→ 『ゲーム開発者の地図』販売ページ
リンク先の「左上の表紙」をクリック/タップすると、
ブラウザからすぐ試し読みサンプルを読むことができます。



【「3ターン自分の攻撃力を1.3倍」にする補助魔法、使う?】

さて、突然ですが問題です。

あなたはとあるRPGをしており、主人公は今
「3ターン自分の『攻撃力』を1.3倍」にする補助魔法が使えます。

・この補助魔法の消費MPは3、今の主人公の残りMPは25です。
(消費量に意味はなく、「多少のコストが必要」という意図です)
・このゲームはよくあるターン制バトルのRPGです。
・主人公は補助なしで戦えば12ターンかけて勝てる程度のHPの敵を相手にしています。
・敵に防御力はなく、「攻撃力=そのまま与えられるダメージ」になるものとします。
・味方は主人公一人で、1ターンに1回行動できます。

さて、この「3ターン自分の『攻撃力』を1.3倍」にする補助魔法、あなたは使いますか?



「攻撃するのも補助魔法を使うのにも1ターン使うの?」 はい、使うものとします。
「『3ターン攻撃力アップ』って、つまり攻撃力が上がった状態で3回分殴れるってことでいい?」
 はい、3回分殴れますよ。
「これ途中で回復のターンがはさまるから3ターン分殴れなくない?」
今回は回復を考慮しません。とりあえず敵の攻撃は4~5回くらい耐えられるものとします。

では皆さんのお答えは?

「少しでも早く倒せそうならMPを消費してでも補助魔法を使っちゃう」? いいですね。
「まだダンジョンの途中かもしれないから使わず温存して戦う」? なるほど。
「補助魔法の重ねがけとかできないの?」って? してもいいですよ。
「もし回復魔法も使えるのなら、MPをそっちに回そうかな」ですか?
うーん、微妙に正解に近いですが、求めている答えはちょっと違うんです。

「もしかしてこの補助魔法、この状況では意味ないんじゃない?」

――そう疑問に思ったあなた!
そう、その疑問こそが、この話題における正解なんです!



【なぜこの状況ではこの補助魔法の意味がないのか】

ということで、解説です。
今回は前提として、「防御力のない耐久力の高い敵1体」を相手にしています。
「補助魔法をかけてから切れるまで」の、4ターン後までを1スパンとして、
この敵に与えられる総ダメージを計算してみましょう。

まず便宜上、主人公の攻撃力は10とし、これがそのまま敵に与えられるダメージとします。
補助魔法を使うのに1ターン。攻撃力が1.3倍になった間に殴れるのが3回分なので、
各ターンのダメージは以下の通りとなり、4ターンで計39ダメージを与えられます。

【補助魔法 あり】 0、13、13、13 → 4ターンで39ダメージ

逆に補助魔法を使わなかった場合、殴れるのは4回分なので、4ターン分のダメージは……。

【補助魔法 なし】 10、10、10、10 → 4ターンで40ダメージ

40ダメージ! ……おや?
なんと補助魔法を使わない方がダメージ効率が高いじゃないですか!
補助魔法を使うと、MPを消費した上に総ダメージも下がってしまいます。なんという損!
ゆえに「もしかしてこの補助魔法、意味ないんじゃない?」がこの話題の正解だったのです。

私のようなアマチュアゲーム開発者のように自由にゲーム内の数値を設定できる立場だと、
今回のような「一見そこそこ効果がありそうに見えて実はあまり意味がない魔法」が
容易に作れてしまいます。

「開発者の皆様はくれぐれも気をつけてくださいね!」なんて言うのは簡単ですが、
これは相当ゲーム慣れしていないとすぐには気づけないことです。
私もしっかり効率を計算できておらず、最近まで似たような過ちをしていました。



【これと似た自分の失敗例】

実は私も、過去作の強制横スクロールRPG『片道勇者』で似た問題を起こしたことがあります。

『片道勇者』は装備として「武器」「防具」「追加装備」の3種を身に付けられるのですが、
その追加装備の中で、クリア特典として
「常時攻撃力・理力効果を20%アップする」という装備を実装していました。
一見、まあまあ効果がありそうに見えますが、実は多くの戦闘では
この上昇量はほとんど効果がなかったのです。

攻撃力が1.2倍になるということはすなわち、5発分の攻撃を当てたときに
やっと1発分の追加ダメージを与えられるということで、
倒すための打数を確実に1発減らすためには5発も攻撃せねばなりません。
ですがほとんどのザコ敵は1~3発程度で倒せる感じになっていたので、
確定で打数が減らせる場面があまりなかったのです。

打数1~3回で倒せる敵に対してその装備を使うと、

元々2発で倒せた敵群(HPが1.1~2.0打分)のうち、
2割だけは1発で倒せるようになる、それ以外は同じ

元々3発で倒せた敵群(HPが2.1~3.0打分)のうち、
4割だけは2発で倒せるようになる、それ以外は同じ

くらいにしかなりません。

敵の耐久力を正確に把握していればもっと使えるかもしれませんが、
これなら連続攻撃が出る確率の方がよっぽど高いし、
そもそも1割くらいの差ならダメージのゆらぎで吸収されてしまうし、
かつ他の追加装備にもっと有用なのがそろっていたのもあって、
その特典アイテムはほとんど使われませんでした。

あくまで「スキル」でなく「装備」なので、敵を倒すのに必要な打数が
たまにしか減らなくても、ある程度許されていたフシはあるかもしれません。
「装備」は永続的に効果があるので、どこかで打数が減らせることはあったでしょう。
でも、もしこれがスキルや魔法だったら、たった1.2倍なんてとても許されないレベルです。
そしてこのときの私の一番の過ちは、
「打数のことを全く計算に入れずに数値を設定していたこと」だったのです。

「それじゃあ具体的に補助魔法やスキルってどのくらいに設定すればいいの?」
というのが気になってくる頃かもしれません。
その話も、後ほどしましょう。



【この魔法、有効なのはどんなとき?】

さて、いきなり役に立たない宣告された先ほどの補助魔法ですが、
ではこんな数値設定の補助魔法は役に立たないのか? と言われればそうではありません!
ということで、汚名返上のために「3ターン攻撃力1.3倍」の
補助魔法が有効そうなケースを考えてみます。
特に気にならない方は、次の項目まで読み飛ばしても大丈夫です。


A.他に相乗効果を付けられる、または重ねがけができる場合

たとえば、自分と別の仲間一人から同じ補助魔法を重ねがけしてもらって、
攻撃力を1.3倍×1.3倍=1.69倍くらいにできたりすればだいぶ効果が高くなります。
二重がけされた主人公の各ターンのダメージは0、17、17、17=4ターンで51ダメージくらいになるので、
40ダメージよりは1打分以上マシになります。

ただし、もしその仲間も攻撃力10だったら、
2人の合計ダメージが素の状態で「80」になってしまいます。
補助魔法を1人目に重ねがけしてやっと合計「81(上の51+10×3ターン分)ダメージ」に
なるだけなので、こういう場合はMPを使う分だけ損になってしまうでしょう。

逆に、仲間が相対的に弱かったらバリバリ主人公の攻撃力を上げるべきです。
たとえば主人公の攻撃力が10、仲間の攻撃力が5と仮定すると、
2人で補助魔法を重ねた場合で「51+15」=66、使わない場合「40+20」=60なので
総ダメージを10%上げることができます!
というかこの際、主人公は攻撃し続けて仲間に毎ターン補助魔法を
重ねがけし続けてもらう方が有利かもしれませんね。
その場合、「10→13→17→22(仲間は常に0)」で4ターンで62ダメージが出せますし、
ここから先も「22」ダメージを出し続けられるので強そうです。MP消費は激しくなります。
(3ターン経つと1回目分の補助魔法が切れ、最大で3重がさねまでできるという前提です)

補助魔法をバリバリに使うゲームなら、火力の集中強化を楽しめるように
メインアタッカーとそれ以外の攻撃力を大きく差別化すると面白くなりそうです。


B.敵に防御力が設定されていた場合

敵に防御力が設定されていてダメージを減少させてくる場合、効率が変わってきます。
たとえば、防御力が「5」あってその分だけ物理ダメージを減らす敵を相手にした場合、
プレイヤーが3ターン攻撃力1.3倍の補助魔法をかければ、

【補助魔法 なし】 5(10-5)、5、5、5 → 4ターンで20ダメージ
 ↓
【補助魔法 あり】 0、8(13-5)、8、8 → 4ターンで24ダメージ

という感じで1スパンあたりのダメージ効率が何もしない場合の20%分も上回ります!
「なるほど、敵に防御力があれば有効なんだ!」

もし問題があるとしたら、「敵の防御力」や「ダメージ計算式」
「敵の残りHP」などが見えない場合はこの判断を行うための
ハードルがだいぶ高くなってしまう点です。
「これを使えば敵を倒すための打数が減るのか? そうじゃないのか?」
もしそれが分からない状態だと、使おうという判断はあまりしないでしょう。
逆にパラメータ丸見えだったり、敵のHPゲージが見えてるならバリバリ使えると思います。

その点、ドラゴンクエストシリーズの「バイキルト」は「最終ダメージ」を2倍にするので、
初見の敵に対しても効果が把握しやすく、シンプルで非常に分かりやすかったと思います。
これをかければ、「敵を倒すために必要な攻撃回数」はほぼ全ての場面で減りますからね!
むしろ強力すぎて必須になっちゃっている感もありますが、
MP消費も程々に高かったので時間で切れるならいいバランスかもしれません。


C.一撃でギリギリ倒せない敵が3体出てきた場合

これは、「3ターン攻撃力1.3倍」の補助魔法の効果を特に発揮できるであろう相手です!
たとえばHP13、防御力0の敵が3体出てきたら、攻撃力10のプレイヤーは
補助魔法なしで倒す場合、1匹あたり2ターンずつ、計6ターン分も殴らなければなりませんが、
先ほどの補助魔法を使って攻撃力を13に上げればそれぞれ一撃で倒せるので、
1ターン目補助魔法+3ターン分の攻撃で、計4ターンで勝利できるのです!
ここまで効果を発揮できれば誰も文句を言わないでしょう。

ただ実戦においてこのケースを活用するには、プレイヤー視点では
「戦う前から敵のHPがいくらか分かっていること」が前提になります。
すでに敵HPを正確に把握しているか、HPゲージが見えていることはある程度前提だと思うので、
敵の能力が最初から見えているゲームに限られる戦法かもしれません。
また、与えられるダメージがランダムで何割か揺らぐゲームだとさらに判断が難しくなります。


D.使用回数が極めて少ない武器(スキル)を使う場合

このケースは、「武器に残り使用回数などが設定されている」ゲームの場合の話です。
やや特殊なケースですが、「武器の耐久度をなるべく温存したい」状況においては
「3ターン攻撃力1.3倍」の補助魔法はけっこう使えます!
なにせ、3回分の攻撃で4打分近くのダメージを与えられるのですから!

言い換えれば、少々のMPと引き替えに武器の使用回数を約25%温存できるわけです。
「たった10回殴ると壊れてしまう超強力な武器」を使う場合などに便利でしょうし、
「1回しか使えない最強の武器(だけどそれだけではボスが倒せない)」を使う場面でも有用です!

同じ発想で、補助魔法に比べて極端にMP消費が大きい強力なスキルや、
使用回数制限が厳しいスキルを使うときも同じように便利になるはずです。
とにかく、数をたくさん撃てない強力な攻撃を行う場合に活用できそうです。

なお主人公一人なら、どんなに強力な技でも「補助魔法未満の消費MP」のスキルであれば
補助魔法なしで4ターンで4発そのまま技を撃った方が効率的です。
きっとすっごく攻撃力上げたくなっちゃうんですけどね!


E.最初の1ターン目にお互い攻撃できない場合

SRPG風バトルなどで距離が離れていて、最初のターンに
敵味方お互いに攻撃ができない場合には、
この補助魔法は割と必須レベルといっていいほど使えるものになるでしょう!

どのみち攻撃できない1ターン目でこちらの攻撃力を1.3倍にし、
そこから3ターンお互いに殴り合えば、こちらは3.9打分のダメージが出せるのに対し、
敵は3打分しかダメージが出せないのですから、
MPの消費さえ許容できれば確実に有利です。
ただし、使っても倒すために必要な打数が変わらないなら、使う意味はありませんけれどね。




ということで「3ターン攻撃力1.3倍」が有効そうなゲームシステムや状況を
色々と想像してきましたが、いかがだったでしょうか。
ゲームの範囲やシステムを広げれば、有利なケースもまだまだ無数にあるはずです。

ただ、これらで挙げた例はあくまで理想的で都合のいい状況を想定した話で、
実戦においては、間に回復ターンがはさまったり、攻撃ミスの可能性があったりして
補助効果がいくらか無駄になったりすることも多く、
MP効率やダメージ効率的に意味がなくなったりするケースも出てきます。
効率計算は上で挙げた以上にもっと複雑になるでしょう。
基本的には、実戦で発揮される効率は計算よりも下がるはずです。

これまでの話を見て来た感じだと、たとえ状況次第で辛うじて最大効率がプラスになっても、
ほんの少しのイレギュラーが発生すると意味のないものになってしまうくらいには、
3ターン攻撃力1.3倍の補助魔法は弱いかなという感触があります。



【結局、補助魔法ってどのくらいの効果にすればいいの?】

結局のところ、「攻撃力アップ」の補助魔法を作る際は、
「倒すための打数が明確に変わる」ような数値設定にしないことには、
補助魔法の強さを実感することが困難だと私は考えています。

たとえば、ほとんどの敵を「およそ3回殴って倒せる」ように設定しているゲームなら、
攻撃力アップの効果を最低でも1.5倍以上にしないと撃破に要する打数を3打→2打に減らせません。
もし「補助魔法を使ったけど、結局同じ3回殴るハメになった」という経験がたまにでもあると、
効率を計算する習慣のない人も「イマイチ使えない魔法だなあ」と思う人が増えるはずです。

また「防御力アップ」の補助魔法なら、それを使ったことで少なくとも
「敵の攻撃を1発は余分に耐えられる」ようにしないとありがたみが薄くなります。
「2発受けたら死ぬ敵」が出たので防御力アップ魔法を使ってみたら、
「確かにダメージは減ったけどやっぱり2発で死ぬ」、となったら
使えない魔法という印象へ一直線です。

状況次第とはいえ、MPとターンの完全なる無駄づかいがたまにでも起きてしまうと、
信頼性の低い魔法だと感じられてしまうでしょう。



【『打数』の発想を装備へ応用してみる】

この補助効果による「打数の変化」は、武器や防具の換装の際にも通用する話です。
武器を新しいものに変えた場合は、「敵を倒すための攻撃回数が1回以上減る」と
かなり強くなった感じが出せるのです。

逆に数値設定によっては、武器を新しくても「倒すための打数」が変わらない場合があります。
それでも「ダメージの数値」自体は増えてしまうので、遊ぶ側は「あー強くなったー」と感じられてしまい、
「武器を新調したが打数の面での効率が全然変わってない」ことに気付かないこともあるのです。
そういう私も、意識しないとほとんど気付きません。でも打数が変わらないんだったら、
武器の換装を遅らせても実はゲーム上の効率は一緒です。

もしこれが、武器を換装することで「倒すのに2発必要だった敵が1発で倒せる」ようになったなら、
きっと「武器のおかげでめちゃめちゃ強くなった」と感じるはずです。
古いゲームですが、『ドラゴンクエスト3』の「はがねのつるぎ」が特に思い出深くて、
「苦労してお金を貯めて買ったら一気に攻撃力が上がって一発で敵が倒せるようになった」、
という体験が発生しやすく、名前のかっこよさとあわせてとても素敵な武器というイメージがありました。



色々なパラメータを決めるのに悩んだときは、こういう観点で考えてみると
より興奮できるゲームに近付けやすくなるのではないかなと考えています。

……といっても情けないことに、この打数の話は私も最近やっと気付いたことだったりします。
遊ぶ側でもあり作る側の私としては、「数値さえ上がってれば+30%でも+50%でも一緒じゃん!」と
これまでずっと思っていて、「必要な打数」の発想にたどりつくまでには
想像以上に遠い道のりを経なければなりませんでした。
シミュレーションRPGだと敵を倒すために必要な打数をものすごく気にするのに、
普通のRPGをプレイするときはほとんど打数を意識していなかったのです。

特に、「ダメージ数値が出るゲーム」かつ「敵パラメータが隠されているゲーム」だと、
「打数が変わってない」ことに意外と気付かない場合があるので、
今後は遊ぶ側としても作る側としても、少し意識していきたいなと思うところです。



以上、「3ターン攻撃力1.3倍の補助魔法、使う?」から始まるバランス調整のお話でした。
だいぶ長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。

次回は、前回の記事「どんな武装がお好き?」で
いただいたコメントのいくつかにもお答えしていきたいと思います。
皆様の様々なご意見、誠にありがとうございます!



他に聞いてみたいことや、私の想像力を試したい内容、
この記事へのコメントやご感想などあればぜひ拍手コメントからどうぞ!
お答えできそうなものは随時お答えしていきます。

それと、来週から『片道勇者TRPG』の件で動きがあります。
よければお楽しみに!
 
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